飲食店の経営で避けられないのが「予約キャンセル」。
直前や無断キャンセルによって、食材ロスや人件費の損失が発生し、経営に大きな影響を与えることもあります。
本記事では、飲食店のキャンセル料の相場と設定方法を中心に、「席だけ予約」や「コース予約」「当日キャンセル」などのケース別対応、さらに法的根拠と注意点、トラブルを防ぐ実務対策までを徹底解説します。
目次
飲食店のキャンセル料はどこまで請求できる?
キャンセル料は“契約違反に基づく損害賠償”として認められる
飲食店の予約は、「来店して食事をする」ことを前提とした契約とみなされます。
そのため、無断キャンセルや直前のキャンセルは「契約不履行」にあたります。
法律上も、契約を履行しなかった場合に債務不履行として損害賠償を請求できることが定められています。
つまり、キャンセル料=店舗側の損害(食材ロス・人件費・機会損失など)を補填する正当な手段です。
ただし、損害額を超える高額な請求は、後述する「消費者契約法」の観点から無効と判断されることがあります。
そのため、金額の設定は合理的かつ実際の損害額に基づくことが重要です。
民法415条と消費者契約法9条の関係
キャンセル料は請求できるが、金額には上限があるというのが法律上の考え方です。
民法第415条では、契約を守らなかった場合に損害を請求できると定められており、飲食店の予約キャンセルも「契約の不履行」として扱われます。
ただし、消費者契約法第9条により、実際の損害を大きく超える金額は無効と判断されることがあります。
そのため、食材費や人件費など、平均的な損害の範囲で設定することがポイントです。
つまり、民法で「請求できる」ことが認められ、消費者契約法で「上限あり」という関係にあります。
「平均的な損害」を超える金額は無効になる可能性も
消費者契約法第9条では、事業者が消費者に対して定める損害賠償額が「平均的な損害の額を超える部分」については無効としています。
「消費者の債務不履行により事業者が受ける平均的な損害の額を超える部分についての損害賠償の予定又は違約金の定めは無効とする。」
したがって、キャンセル料を設定する際は、
実際の損害(食材の原価、人件費、逸失利益の一部など)を考慮し、「平均的な損害」に基づいた金額設定にすることが求められます。
無断キャンセルなどの悪質なケースでも、100%請求の根拠を明示できるよう、「予約規約」「同意画面」「サイト記載」などで事前説明と同意取得をしておくことが大切です。
電話・ネット予約でも契約は成立する?
電話などの口頭でのやり取りやネット予約でも契約は成立します。
予約とは、店舗と顧客の間で「日時・人数・利用内容を合意した約束」であり、民法上の「申込み」と「承諾」が一致すれば契約が成立します。
そのため、「予約を受けた時点」で店舗側には準備義務が発生し、顧客には来店義務(=履行義務)が発生します。
請求には「明示」「同意」「合理性」が必要
キャンセル料を請求する際は、以下の3つの条件を満たしていることが望まれます。
・事前に明示していること
(予約時または事前に案内していた)
・顧客の同意があること
(予約フォームに記載されていた、電話で説明したなど)
・金額に合理性があること
(実際の損害に見合う額であること)
このような条件を満たしていない場合、法的には請求自体は可能でも、トラブルになりやすく、対応が難しくなるケースがあります。
2025年版|飲食店キャンセル料の相場早見表
飲食店のキャンセル料の相場について、予約種別やキャンセルの日にちの段階別に表にしました。
表は横にスクロールが可能です。
予約タイプ | 2日前まで | 前日キャンセル | 当日キャンセル | 無断キャンセル |
席だけ予約 (居酒屋・カフェなど) |
0% (無料対応が一般的) |
0% (混雑時や団体予約など一部で設定) |
30〜50% (仕込みや人件費が発生する場合) |
50%前後 (実際の損害を説明できる場合) |
コース予約 (宴会・飲み放題等) |
0〜50% (仕込み・発注済みを考慮) |
30〜80% (食材ロスが大きい場合) |
80〜100% (実務上は全額が多い) |
100% (合理的根拠がある場合) |
貸切・団体予約 | 30〜80% (準備段階により調整) |
50〜100% (人件費・機会損失を考慮) |
100% (他予約を断っているため) |
100% (同意・規約に基づき請求可能) |
席だけ予約の場合、前日までのキャンセルは無料としている店舗が多いです。
キャンセル料を設定する場合は、混雑時や団体予約など損害が見込まれる条件下のみに限定するのが望ましいです。
コースや貸切では、食材発注・仕込み・スタッフ手配などの準備コストが発生するため、「前日50%・当日100%」などの数字を相場とすることができます。
無断キャンセル時は、損害を証明できる範囲で最大100%請求が可能ですが、あくまで「平均的損害」を超えない金額にとどめることが大切です。
飲食店のキャンセル料設定の注意点
キャンセル料を設定する際には、業態や予約内容に応じた適切な金額とルールを設ける必要があります。ここでは、よく使われている設定パターンと注意点について解説します。
一律型・段階型の設定パターン
キャンセル料の設定には、主に以下の2つの方法があります。
一律型:
キャンセル時期にかかわらず、固定の割合または金額を請求(例:一律5,000円、またはコース代金の100%)
段階型:
キャンセル時期によって請求額を変える(例:2日前までは無料、前日は50%、当日は100%)
段階型は合理性が伝わりやすく、トラブルを避けやすいため、多くの店舗が採用しています。
消費者庁の見解と「不当表示」に注意
消費者庁は「著しく高額なキャンセル料」や「キャンセルポリシーの非表示」について、消費者トラブルを引き起こす要因として注意を促しています。
・あらかじめキャンセル料を明示していない場合の請求はトラブルの元
・実際の損害に見合わない高額な請求は「不当表示」と見なされる恐れあり
繰り返しにはなりますが、請求を正当化するには、事前告知の徹底と金額の妥当性が欠かせません。
飲食店における予約キャンセルの実情と影響
飲食店では、無断キャンセルや当日直前のキャンセルが経営に深刻な影響を及ぼしています。近年は予約サイトの普及により「とりあえず予約」が増え、簡単にキャンセルされる傾向が強まっています。ここでは、キャンセルによる具体的な損害やリスクについて解説します。
経営への具体的な損害
無断キャンセルや直前のキャンセルは、以下のような損害をもたらします。
・食材ロス
(予約に合わせて仕入れた食材が無駄になる)
・人件費の無駄
(仕込みや接客準備にかかった人件費)
・売上機会の損失
(満席想定で断った他の予約客を失う)
キャンセル1件ごとの損失は数千円から数万円に及ぶこともあり、月単位・年単位で見ると大きな経営的ダメージとなります。
SNSやレビューによる二次被害に注意
キャンセル料を請求した際、対応が不適切だと「態度が悪い」「感じが悪い店」などとSNSや口コミサイトで悪評を投稿されることがあります。これにより、正当な対応をしていたとしても店舗イメージが損なわれるリスクがあります。
こうしたトラブルを避けるためには、キャンセルポリシーをあらかじめ明示し、予約時に顧客に内容を理解・同意してもらうことが重要です。
実際にお客様側がどんな心理・状況か知りたい方はこちらもご覧ください。
トラブルを防ぐキャンセルポリシーの作り方と伝え方
キャンセル料を請求するためには、あらかじめキャンセルポリシーを明示し、顧客に理解・同意してもらうことが不可欠です。ここでは、効果的なポリシーの作り方と、伝え方のポイントを解説します。
明示すべき項目
キャンセルポリシーには、最低限以下の内容を盛り込む必要があります。
・キャンセル料の対象となる条件(例:○日前以降のキャンセルは対象)
・金額または割合(例:当日は100%、前日は50%)
・対象範囲(例:コース予約のみ適用、5名以上の団体予約のみ適用)
・請求方法(店頭/後日連絡など)
このように具体的な基準を設定し、顧客にとっても分かりやすい形で記載することが重要です。
店頭・予約ページ・SNSでの表示例
キャンセルポリシーは、単に作るだけでは意味がありません。顧客が予約前に目にする場所に掲載する必要があります。
・店内掲示(入口やレジ周辺)
・電話予約時の口頭案内
・予約フォームの記載欄(必須チェックにする)
・公式サイト・Instagram・Googleビジネスプロフィールなど
可能であれば、予約確定後のメールにも再記載しておくと、トラブル回避に効果的です。
分かりやすいキャンセルポリシーのテンプレート
以下は、実際に使えるシンプルな文例です。必要に応じて業態や金額に合わせて調整してください。
キャンセルポリシー(例)
ご予約のキャンセルにつきましては、以下の通りキャンセル料を申し受けます。
・当日のキャンセル:ご予約料金の100%
・前日までのキャンセル:ご予約料金の50%
・2日前までのキャンセル:無料
※無断キャンセルの場合も、当日キャンセルと同様の対応となります。
※キャンセルの場合は必ずお電話にてご連絡ください。
事前にこのようなポリシーを明示しておくことで、店舗側の立場を守りつつ、顧客とのトラブルも予防できます。
キャンセル料を実際に請求する方法と注意点
キャンセル料のルールを決めていても、実際に請求する場面ではトラブルや心理的な抵抗を感じることがあります。
ここでは、現場でスムーズに請求を行い、トラブルを防ぐための実務ポイントをまとめます。
丁寧に連絡を入れる
来店予定だった顧客と連絡が取れる場合は、まず電話・SMS・メールなどで冷静に状況確認を行いましょう。
いきなり「キャンセル料を払ってください」と伝えるよりも、まずは確認から入ることで相手の心理的抵抗を減らせます。
例文(電話・メール)
ご来店が確認できませんでしたが、もしご事情があればお聞かせください。
当店のキャンセルポリシーに基づき、キャンセル料(○○円/人)を申し受けております。
詳細はメールでもご案内いたします。
請求内容と根拠を明確に伝える
請求の際は、感情ではなく事実ベースで話すことが大切です。
以下の3点を明確に伝えることで、トラブルを防げます。
・予約が正式に成立していたこと
・キャンセルポリシーを事前に案内・同意取得していたこと
・実際の損害に基づいた合理的な金額であること
言った言わないの問題を避けるため、予約履歴・メール・メッセージ記録などの証拠を残しておくと安心です。
連絡手段とトーンの使い分け
状況に応じて、適切な連絡手段を選びましょう。
手段 | 特徴 |
電話 | 最も丁寧で誠実さが伝わるが、感情的なやり取りになりやすい |
メール | 文章で証拠が残るため安心。ビジネス的で冷静な印象 |
LINEやDM | 普段使い慣れており、開封率が高い。個人客向けに有効 |
また、金額が大きい場合や法人顧客の場合は、簡易的な請求書を発行すると信頼性が高まります。
支払いがない場合の対応ステップ
再通知から法的手段まで、段階的に進めるのが理想です。
1.再通知(1〜2日後)
メールやSMSで再度穏やかに連絡。
2.内容証明郵便での請求
少額でも「誠実な対応を求める姿勢」として有効。
3.少額訴訟の検討(上限60万円)
ただし、費用や労力を考えると「再発防止策」を優先する店舗も多いです。
クレーム・悪評価を避ける対応
請求に対して顧客が納得しない場合でも、冷静かつ丁寧に対応することが重要です.
・感情的にならず、説明を繰り返す
・「事前に同意を得ている」ことを淡々と伝える
・SNSなどでの悪評を防ぐため、言葉遣いと態度に最大限配慮する
場合によっては、一部免除や次回割引などの譲歩を提示するのも円満な解決策のひとつです。
事前対策で“請求しなくて済む状態”をつくる
トラブルを減らす一番の方法は、「キャンセル料を取らなくて済む仕組み」を整えることです。
・予約時にキャンセルポリシーを明示(フォーム・電話・メール)
「当日のキャンセルはコース料金の50%、無断キャンセルは100%を申し受けます。」
・リマインドメールやLINE通知で当日忘れを防ぐ
・事前決済やカード登録を導入
これらの仕組みを整えることで、支払い拒否リスクを減らし、顧客との信頼関係も保てます。
キャンセル・ノーショー対策に使えるツール・仕組み
無断キャンセルや直前のキャンセルを防ぐためには、店舗のルール整備だけでなく、ツールやシステムを活用した仕組み化が有効です。ここでは、飲食店で実践できる代表的な対策手段を紹介します。
予約管理システムの導入
クラウド型の予約管理ツールを活用することで、顧客情報の一元管理やキャンセル発生の可視化が可能になります。システム上でキャンセル履歴を追跡できるため、再発防止にも役立ちます。
主なシステム:
・Rリザーブ
・TableCheck
・TORETA
・ebica
POSレジと連携させることで、売上分析やキャンセル率の把握にもつながります。
クレジットカード事前登録による抑止効果
予約時にクレジットカード情報を事前登録してもらうことで、キャンセル料の自動請求や、キャンセル自体の抑止効果が期待できます。無断キャンセル対策として非常に有効な手段です。
導入可能な代表的サービス:
・TableCheck:
予約時にカード情報の事前入力を求められ、キャンセル料の自動徴収にも対応。高級店を中心に導入が進んでいます。
・ホットペッパーグルメ:
一部加盟店舗でネット予約時に事前決済・カード登録が可能。キャンセル時の請求も規定に基づいて実行できます。
いずれのサービスも、事前にキャンセルポリシーを明示し、利用者の同意を得ることが前提です。導入時には、料金体系や契約条件を確認のうえ、適切な運用を行いましょう。
SMSやメールによるリマインド通知
予約日前日にリマインド通知を自動送信するだけでも、直前キャンセルや無断キャンセルの削減効果があります。
・SMS:到達率が高く、即時確認されやすい
・メール:長文対応に適し、テンプレで自動送信が可能
リマインドの文面には、キャンセルポリシーの再案内を含めるとより効果的です。
よくある質問(Q&A)
飲食店がキャンセル料を設定・運用する際に、現場からよく寄せられる疑問について解説します。
Q1. 当日キャンセルでもキャンセル料は請求できますか?
A1. はい、可能です。
予約が成立しており、店舗側に実際の損害が発生していれば、当日のキャンセルでも民法に基づいてキャンセル料を請求できます。
ただし、事前にキャンセルポリシーを提示しておくことが、トラブル防止の観点からも重要です。
Q2. キャンセル料を伝えていなかった場合でも請求できますか?
A2. 法的には請求可能ですが、現実的には難しいケースがあります。
キャンセルポリシーを顧客に明示していなかった場合、「そんな説明は受けていない」と言われ、トラブルになる可能性があります。
請求を正当化するためには、予約時にキャンセル規定を提示し、同意を得ておくことが不可欠です。
Q3. 常連客にキャンセル料を請求すると関係が悪くなりませんか?
A3. そのリスクはありますが、伝え方次第で関係を維持できます。
たとえば「今回は初回なので免除とさせていただきますが、次回以降はご注意ください」と伝えることで、ルールを守ってもらいつつ関係を保つことができます。
一律の対応ではなく、柔軟な判断が重要です.
Q4. 少額訴訟など法的手段は現実的ですか?
A4. 少額の請求に対しては現実的ではありません。
数千円〜1万円程度のキャンセル料を巡って訴訟を起こすと、時間と労力の負担が大きく、店舗側の負担が重くなります。
トラブルを避けるためにも、請求前の事前案内と丁寧な対応が最も効果的な予防策です。
まとめ:キャンセル料の明示と運用で、店舗の信頼と利益を守る
無断キャンセルや直前のキャンセルは、飲食店にとって大きな損害となり得ます.
しかし、キャンセル料の設定と請求には法的な正当性と顧客への丁寧な対応が求められます.
トラブルを避けながら、店舗の利益を守るために重要なポイントは以下のとおりです.
・キャンセル料の法的根拠を理解し、適正なルールを設けること
・キャンセルポリシーを事前に明示し、顧客に同意を得ること
・クレジットカード登録やリマインド通知など、仕組みで未然に防ぐこと
・実際に請求する際は、冷静で丁寧な対応を心がけること
キャンセル料を明文化し、運用ルールを整えることは、店舗を守るだけでなく、誠実な営業姿勢として顧客からの信頼向上にもつながります.
利益と信頼のバランスを意識しながら、キャンセル対策を仕組みとして定着させていきましょう。