飲食店の予約キャンセル料は請求できる?相場・法的根拠・注意点を解説

予約の無断キャンセルや当日キャンセルは、飲食店にとって大きな損害となる深刻な問題です。
こうした被害を防ぐためには、キャンセル料の設定と明確なルールの運用が欠かせません。
本記事では、キャンセル料の法的根拠から設定方法、トラブルを避ける実務対応まで、飲食店が知っておくべきポイントを詳しく解説します。

目次

飲食店における予約キャンセルの実情と影響

飲食店では、無断キャンセルや当日直前のキャンセルが経営に深刻な影響を及ぼしています。近年は予約サイトの普及により「とりあえず予約」が増え、簡単にキャンセルされる傾向が強まっています。ここでは、キャンセルによる具体的な損害やリスクについて解説します。

経営への具体的な損害

無断キャンセルや直前のキャンセルは、以下のような損害をもたらします。

・食材ロス(予約に合わせて仕入れた食材が無駄になる)
・人件費の無駄(仕込みや接客準備にかかった人件費)
・売上機会の損失(満席想定で断った他の予約客を失う)

キャンセル1件ごとの損失は数千円から数万円に及ぶこともあり、月単位・年単位で見ると大きな経営的ダメージとなります。

SNSやレビューによる二次被害

キャンセル料を請求した際、対応が不適切だと「態度が悪い」「感じが悪い店」などとSNSや口コミサイトで悪評を投稿されることがあります。これにより、正当な対応をしていたとしても店舗イメージが損なわれるリスクがあります。
こうしたトラブルを避けるためには、キャンセルポリシーをあらかじめ明示し、予約時に顧客に内容を理解・同意してもらうことが重要です。
実際にお客様側がどんな心理・状況か知りたい方はこちらもご覧ください。

キャンセル料は請求できる?法的な根拠と注意点

キャンセル料を請求したいと考えていても、「本当に請求しても問題ないのか」「法律上はどうなっているのか」と不安を感じる飲食店は多くあります。ここでは、キャンセル料請求の法的根拠と、実務で注意すべき点を解説します。

民法第415条に基づく損害賠償請求

飲食店の予約は、口頭・電話・ネット予約など形式を問わず、契約として成立します。民法第415条では、契約を履行しなかった場合、債務不履行による損害賠償を請求できると定められています。
したがって、予約当日に来店がなかった場合、そのことによって店舗側が損害を受けたと認められれば、キャンセル料は損害賠償として法的に請求可能です。

口頭予約でも契約は成立する

予約は書面でなくても成立します。たとえば電話での予約も、日時・人数・内容などが合意されていれば契約と見なされます。したがって、「書面で残っていないから請求できない」ということはありません。
ただし、後にトラブルになるのを防ぐためにも、予約内容はなるべく記録(メモ・システム上の履歴など)に残しておくことが望ましいです。

請求には「明示」「同意」「合理性」が必要

キャンセル料を請求する際は、以下の3つの条件を満たしていることが望まれます。

・事前に明示していること(予約時または事前に案内していた)
・顧客の同意があること(予約フォームに記載されていた、電話で説明したなど)
・金額に合理性があること(実際の損害に見合う額であること)

このような条件を満たしていない場合、法的には請求自体は可能でも、トラブルになりやすく、顧客対応で苦慮するケースがあります。

飲食店のキャンセル料、相場と設定方法の実例

キャンセル料を設定する際には、業態や予約内容に応じた適切な金額とルールを設ける必要があります。ここでは、よく使われている設定パターンと業種別の相場、注意点について解説します。

一律型・段階型の設定パターン

キャンセル料の設定には、主に以下の2つの方法があります。
・一律型
キャンセル時期にかかわらず、固定の割合または金額を請求(例:一律5,000円、またはコース代金の100%)

・段階型
キャンセル時期によって請求額を変える(例:2日前までは無料、前日は50%、当日は100%)

段階型は合理性が伝わりやすく、トラブルを避けやすいため、多くの店舗が採用しています。

業態別の相場感

店舗の形態によって、適切なキャンセル料の水準は異なります。以下に主な業態ごとの目安を示します。

業態 キャンセル料の例
一般的な居酒屋 1人あたり1,000〜3,000円程度または飲食代の50〜100%
コース料理を提供するレストラン コース料金の100%(当日キャンセル)
完全予約制・貸切営業 総額の50〜100%(3日前以降のキャンセルで適用)

実際の運用では、仕入れや準備の有無に応じて柔軟に設定することが重要です。

消費者庁の見解と「不当表示」に注意

消費者庁は「著しく高額なキャンセル料」や「キャンセルポリシーの非表示」について、消費者トラブルを引き起こす要因として注意を促しています。

・あらかじめキャンセル料を明示していない場合の請求はトラブルの元
・実際の損害に見合わない高額な請求は「不当表示」と見なされる恐れあり

請求を正当化するには、事前告知の徹底と金額の妥当性が欠かせません。

トラブルを防ぐキャンセルポリシーの作り方と伝え方

キャンセル料を請求するためには、あらかじめキャンセルポリシーを明示し、顧客に理解・同意してもらうことが不可欠です。ここでは、効果的なポリシーの作り方と、伝え方のポイントを解説します。

明示すべき項目

キャンセルポリシーには、最低限以下の内容を盛り込む必要があります。

・キャンセル料の対象となる条件(例:○日前以降のキャンセルは対象)
・金額または割合(例:当日は100%、前日は50%)
・対象範囲(例:コース予約のみ適用、5名以上の団体予約のみ適用)
・請求方法(店頭/後日連絡など)

このように具体的な基準を設定し、顧客にとっても分かりやすい形で記載することが重要です。

店頭・予約ページ・SNSでの表示例

キャンセルポリシーは、単に作るだけでは意味がありません。顧客が予約前に目にする場所に掲載する必要があります。

・店内掲示(入口やレジ周辺)
・電話予約時の口頭案内
・予約フォームの記載欄(必須チェックにする)
・公式サイト・Instagram・Googleビジネスプロフィールなど

可能であれば、予約確定後のメールにも再記載しておくと、トラブル回避に効果的です。

分かりやすいキャンセルポリシーのテンプレート

以下は、実際に使えるシンプルな文例です。必要に応じて業態や金額に合わせて調整してください。

キャンセルポリシー(例)

ご予約のキャンセルにつきましては、以下の通りキャンセル料を申し受けます。

・当日のキャンセル:ご予約料金の100%
・前日までのキャンセル:ご予約料金の50%
・2日前までのキャンセル:無料
※無断キャンセルの場合も、当日キャンセルと同様の対応となります。
※キャンセルの場合は必ずお電話にてご連絡ください。

事前にこのようなポリシーを明示しておくことで、店舗側の立場を守りつつ、顧客とのトラブルも予防できます。

実際にキャンセル料を請求する際のポイント

キャンセル料のルールを設けていても、実際に請求する場面ではトラブルや心理的な抵抗を感じることがあります。ここでは、現場でのスムーズな請求方法と注意点を解説します。

口頭での請求と証拠の残し方

来店予定だった顧客と連絡が取れる場合は、まず電話やSMSなどで丁寧に請求の理由を説明します。
その際、以下の点を明確に伝えることが重要です。

・予約が正式に成立していたこと
・キャンセルポリシーを事前に案内していたこと
・実際の損害に基づく請求であること

言った言わないのトラブルを避けるため、予約履歴・案内メール・メッセージ履歴など、証拠を残しておくと安心です。

請求書・メール・SNSメッセージの使い分け

連絡手段としては、以下のような方法が考えられます。

・電話:最も丁寧だが、感情的な対応になりやすい
・メール:文章で証拠が残るため安心
・LINEやInstagram DM:普段使い慣れている人が多く、開封率が高い

また、一定額以上の請求や法人相手の場合は、簡易的な請求書を作成すると信頼性が高まります。

クレーム・悪評価を避ける対応方法

キャンセル料の請求に対して、顧客が納得しない場合もあります。その際は、あくまで冷静かつ事実ベースでの対応を徹底しましょう。

・感情的にならず、説明内容を繰り返す
・キャンセルポリシーに同意済みであることを淡々と伝える
・SNSでの悪評対策としても、文面や態度には最大限配慮する

場合によっては、金額の一部免除や次回割引などの譲歩を提案することも選択肢の一つです。

キャンセル・ノーショー対策に使えるツール・仕組み

無断キャンセルや直前のキャンセルを防ぐためには、店舗のルール整備だけでなく、ツールやシステムを活用した仕組み化が有効です。ここでは、飲食店で実践できる代表的な対策手段を紹介します。

クレジットカード事前登録による抑止効果

予約時にクレジットカード情報を事前登録してもらうことで、キャンセル料の自動請求や、キャンセル自体の抑止効果が期待できます。無断キャンセル対策として非常に有効な手段です。
導入可能な代表的サービス:

・TableCheck:予約時にカード情報の事前入力を求められ、キャンセル料の自動徴収にも対応。高級店を中心に導入が進んでいます。
ホットペッパーグルメ:一部加盟店舗でネット予約時に事前決済・カード登録が可能。キャンセル時の請求も規定に基づいて実行できます。

いずれのサービスも、事前にキャンセルポリシーを明示し、利用者の同意を得ることが前提です。導入時には、料金体系や契約条件を確認のうえ、適切な運用を行いましょう。

予約管理システムの導入

クラウド型の予約管理ツールを活用することで、顧客情報の一元管理やキャンセル発生の可視化が可能になります。システム上でキャンセル履歴を追跡できるため、再発防止にも役立ちます。
主なシステム:

・TableCheck
・TORETA
・ebica
・Rリザーブ

POSレジと連携させることで、売上分析やキャンセル率の把握にもつながります。

SMSやメールによるリマインド通知

予約日前日にリマインド通知を自動送信するだけでも、直前キャンセルや無断キャンセルの削減効果があります。

・SMS:到達率が高く、即時確認されやすい
・メール:長文対応に適し、テンプレで自動送信が可能

リマインドの文面には、キャンセルポリシーの再案内を含めるとより効果的です。

よくある質問(Q&A)

飲食店がキャンセル料を設定・運用する際に、現場からよく寄せられる疑問について解説します。

Q1. 当日キャンセルでもキャンセル料は請求できますか?

A1. はい、可能です。
予約が成立しており、店舗側に実際の損害が発生していれば、当日のキャンセルでも民法に基づいてキャンセル料を請求できます。
ただし、事前にキャンセルポリシーを提示しておくことが、トラブル防止の観点からも重要です。

Q2. キャンセル料を伝えていなかった場合でも請求できますか?

A2. 法的には請求可能ですが、現実的には難しいケースがあります。
キャンセルポリシーを顧客に明示していなかった場合、「そんな説明は受けていない」と言われ、トラブルになる可能性があります。
請求を正当化するためには、予約時にキャンセル規定を提示し、同意を得ておくことが不可欠です。

Q3. 常連客にキャンセル料を請求すると関係が悪くなりませんか?

A3. そのリスクはありますが、伝え方次第で関係を維持できます。
たとえば「今回は初回なので免除とさせていただきますが、次回以降はご注意ください」と伝えることで、ルールを守ってもらいつつ関係を保つことができます。
一律の対応ではなく、柔軟な判断が重要です。

Q4. 少額訴訟など法的手段は現実的ですか?

A4. 少額の請求に対しては現実的ではありません。
数千円〜1万円程度のキャンセル料を巡って訴訟を起こすと、時間と労力の負担が大きく、店舗側の負担が重くなります。
トラブルを避けるためにも、請求前の事前案内と丁寧な対応が最も効果的な予防策です。

まとめ:キャンセル料の明示と運用で、店舗の信頼と利益を守る

無断キャンセルや直前のキャンセルは、飲食店にとって大きな損害となり得ます。
しかし、キャンセル料の設定と請求には法的な正当性と顧客への丁寧な対応が求められます。
トラブルを避けながら、店舗の利益を守るために重要なポイントは以下のとおりです。

・キャンセル料の法的根拠を理解し、適正なルールを設けること
・キャンセルポリシーを事前に明示し、顧客に同意を得ること
・クレジットカード登録やリマインド通知など、仕組みで未然に防ぐこと
・実際に請求する際は、冷静で丁寧な対応を心がけること

キャンセル料を明文化し、運用ルールを整えることは、店舗を守るだけでなく、誠実な営業姿勢として顧客からの信頼向上にもつながります。
利益と信頼のバランスを意識しながら、キャンセル対策を仕組みとして定着させていきましょう。

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